たんすい日記

2009.06.25

Londonリポート Vol.5 イギリスの料理はまずい!

「今度イギリスに行くことになりました。」
「それはステキね。でも料理がまずいからね・・・・」
なんて、私を見送る日本人が口をそろえて、そんな言葉を贈ってくれた。
言われ続けて、私も半信半疑。そんなにイギリスってまずいのかしら???


こちらで毎日料理をするのは至難の業である。
スーパーにはいろんな野菜が売っているのだが、私が知っていて、しかも使いこなせる野菜は、かなり限定されている。たとえばサツマイモみたいに顔は似ていても、食べてびっくり、味が全く違う・・・なんてこともある。

そういったわけで、
わたしは今まで見たことのある顔見知りの野菜ばかりを使って、料理していた。ベテラン主婦ならまだしも、私は新米主婦。その中で料理できる品数なんて限られている。

かといって日本料理は、こちらでは毎日というわけにはいかない。
日本食材(日本からの輸入品)は、日本の定価の2~3倍はする。たとえばカレールーが、ひとつ500~600円といった具合。毎日日本料理だと、家計が圧迫される。
もっとも日本料理を作ろうなんて思っても、まず、肉の薄切りが売っていない。すべてがかたまり肉なもんだから、困ってしまう。

数ヶ月たったころ、私と主人は、ワンパターンの料理に飽き飽きしていた。
しかし、スーパーにいくと、今までお目にかかったことのないいろんな野菜や肉が、並んでいる。せっかくだからイギリス人が家庭で作るような、イギリス料理を作ってみたい。
「きっと料理番組で、紹介されるはず・・・」と、テレビの番組を探しても料理番組はほとんど行われていない。一度視た料理番組は、どれだけ早く料理ができるか!?を競っていた。

「そうだ、料理の本を買えばいいんだ」
と本屋さんに言ってみても、イタリア・日本・トルコ・果てはレバノンまで、各国料理の本は売っているのだけれど、イギリス料理の本は皆無。
嗚呼、これらの食材はどうやって料理するんだろう・・・・・。

ある日、料理上手と友人の間でも評判のイギリス人、アンルイスに訊いてみた。


「あら、簡単よ。チキンは丸ごとオーブンにいれてローストにするの、ローストチキンになるでしょ!」
「それじゃあ、七面鳥は?」
「それも、ロースト、でもソースは変えなくっちゃ。
セインズベリ(イギリス大手のスーパーの名前)のグレービーにラズベリーソースが美味しいわ。」
「羊は?」
「ロースト、ミントソースがおいしいわ。そのときに一緒にジャガイモも焼いてね。ローストポテトになるからね!」

要するに、肉は全てオーブンに入れて調理するらしい。

野菜についても訊いてみた。
「そんなの簡単、全部煮るのよ。」
「味は?」
「食卓に塩があるでしょ。それを各自お好みに合わせてかけるだけ。」

それじゃあ、スコーン。これは世界でも有名なイギリス家庭菓子。これだったら、みんな家庭で作っているはず。料理上手のアンルイスだったら、とびっきり美味しくつくれるレシピを知っているはず!
「スコーン!私いいスコーンミックスしってるの。」
「・・・・・・」
さすがにこれには閉口してしまった。


インスタントといえば、こちらはとても発達している。イギリス家庭は共働きが多いせいか、食事の準備に時間をかけない。
何てったって、オーブンに入れておけば、食事はできあがってくれるんだから、料理はオーブンに任せて、ゆっくりと自分の、夫婦の、また家族との時間を過ごす。

日本のお母さんと違って、台所で過ごす時間が短いから、リビングにキッチンがついているオープンキッチンという概念もあまりない。たいていのフラット(アパート)は、台所が独立している。

サラダ用の野菜は、洗っていろいろな野菜をミックスした袋がうっている。従って袋からだしてお皿に盛りつけるだけ。冷凍食品の充実度は、言うまでもない。ありとあらゆる冷凍食品が売られている。そのため、我が家の作りつけの冷凍庫も、冷蔵庫と同じくらい(またはそれ以上)の大きさがある。

インスタントもよりどりみどり。イギリス伝統的家庭料理はもちろん、イタリア料理にインド料理、タイ料理、ギリシア料理。様々な料理キットが売っている。袋の中の野菜を炒めて、またはボイル、オーブンにいれて、後はソースと絡めるだけなどなど、いとも簡単に世界各国のアジが楽しめてしまうのである。
もちろんそれが美味しいかどうかは、別の問題なのだが。

どうも、イギリス人は、食べることに関して、関心が薄いようだ。
若い頃から、グルメを気取る日本人。美味しいお店を知っていることが、おしゃれな若者として欠かせない要素の日本人には考えられないのだが、ピューリタン的禁欲主義において、食べるという欲望は、みっともないことであって、そんな欲望を抑えることがイギリス人の美徳。食事のことについてあれこれ言う男性は、ジェントルマンとして失格なのである。

これらの経験から得た結論=”イギリスの料理はまずい”
この悪評を聞くたびに私は、最近子供が生まれパパになったジョンの、熱っぽい言葉が脳裏に蘇る。

「イギリスの料理が不評だって!?しってるよ。
でも、考えてみてよ。もし奥さんが料理をするために何時間も台所にいてごらんよ。
僕と、僕のかわいい子供との3人の団らんがなくなっちゃうだろ?そんなの悲しいな。
僕はどんなに美味しい料理より、家族との団らんの方がうれしいよ。」

アーカイブ